新型コロナ後遺症について

新型コロナ感染症(病名:COVID-19)は、従来、風邪(正式病名:急性上気道炎)を引き起こす原因となるコロナウイルス属の4種類のウイルスと異なり、2002年中国広東省で発生し、世界29か国に蔓延した重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年に中東地域の一部で発生して7か国に感染が確認された中東呼吸器症候群(MERS)と類縁のコロナウイルス(SARS-Cov-2)によって引き起こされる感染症です。ゲノム変異(生命体を構成する遺伝子全体を「ゲノム」といいます)が速いのが特徴で、元々はコウモリに感染するウイルス(野生株)が変異を起こしてヒトに感染し、中国の武漢で最初の罹患者が発生してから、たった2か月で世界中を汚染しました。

新型コロナ後遺症のイメージ画像

パンデミック当初は、我が国の厚労省のホームページにも“風邪の一種”と記載されるなど、甘く見積もられていたものが、感染した方がほんの数日で亡くなられたり、SARSやMERSのように呼吸器感染症以外の病態も呈するということで、従来の風邪の原因となるコロナウイルスとも、SARSウイルスやMERSウイルスとも異なる重症コロナウイルス属による感染症として、SARS-Cov-2(新型コロナウイルス)による感染症(COVID-19)として改めて認識されなおした重症感染症です。

新型コロナウイルスに感染すると、次のような病態を呈します。

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1.発熱性消耗

インフルエンザと類似していますが、高い発熱の持続と脱水・電解質喪失、体力消耗などによって"衰弱死"することがあります。

2.間質性肺炎

旧来の医学用語で「肺臓炎」と呼ばれる病態です。「肺炎」が肺胞から侵入した病原体(ウイルス・細菌・原虫・異型病原体など)が肺胞や気管支周囲に炎症を起こす(前者を大葉性肺炎、後者を気管支肺炎といいます)のに対し、血管周囲からの炎症波及による肺や気管支・細気管支・呼吸細気管支の炎症を来すのが特徴です。激烈な増悪を来すのが特徴で、増悪前には微熱や全身倦怠感程度だった方が、急激な増悪(急性呼吸不全)によって数時間で死亡するケースがみられます。

また、この後遺症として「肺線維症」が起きることが知られており、呼吸・面積の減少によって「慢性呼吸不全」を来すことも危惧されます。

3.全身性血管炎

膠原病用語で「血管炎症候群」という言葉がありますが、お子さんを持つ親御さんは妊娠中の母親学級で「川崎病」について学んだ記憶があるかと思います。この川崎病こそ、全身性血管炎を来す病気で、新型コロナウイルスが小児に感染すると、この川崎病の診断基準を全て満たすケースがあるということで、パンデミックの早い段階で日本川崎病学会から、全医学会に対して注意喚起する文書通達が行われました。

この「血管炎」の結果として、つぎのような病態が引き起こされます。

① 血栓形成

炎症を起こした血管内膜が傷つき、そこに血栓が付着し、血管を狭窄・閉塞することによって皮膚に潰瘍を形成したり、血栓が血流に乗って、各種の重要な臓器に塞栓症を引き起こします。動脈系では脳梗塞、心筋梗塞、腎梗塞、手足の壊疽など。静脈系では、肺血栓塞栓症(肺梗塞)などの致命的な血栓塞栓症を来す可能性があります。
過去の症例報告には、大動脈弁口から大動脈弓、腹部大動脈まで一気に血栓で閉塞して死亡したケースも報告されています。

② 血管閉塞

血管壁の炎症自体によって、動静脈血管の閉塞による各臓器の機能障害が引き起こされます。どの血管が閉塞するかによってどの臓器が障害されるかが異なります。また、血管のポンプ機能を果たしている「心筋炎」なども発生し得ます。
また、様々な臓器を栄養する血管に瘤を発生することもあります。心臓の冠動脈瘤は同じ全身性血管炎の川崎病の合併症として有名です。また脳の奥の奥にある細い血管に動脈瘤ができて、それが破裂して「くも膜下出血」を起こしたと思われる症例も多数報告されています。

膵臓を栄養する血管の閉塞によって、膵臓が壊死したり、インスリン分泌を担っている組織が破壊されて「Ⅰ型糖尿病」が発生したという症例報告が武漢株当初からありましたが、近年、様々な病態が複合して発生すると考えられ、全容がまだ明らかになっていない「Ⅱ型糖尿病」の原因や増悪因子になるという報告が相次ぎ、新型コロナウイルス感染症の病態は、単純なものではないということが明らかにされてきました。

3.サイトカインによる影響

"サイトカイン・ストーム"という言葉を聞いたことがあるかと思います。サイトカインというのは、細胞(サイト)が作り出す物質(カイン)という意味で、主に、免疫細胞同士の情報伝達物質のことを指します。その中で、生体防御免疫のために炎症反応を引き起こすものを「炎症性サイトカイン」と呼び、炎症反応を抑制するものを「炎症抑制性サイトカイン」と呼びます。

"サイトカイン・ストーム"は、読んで字のごとく、炎症性サイトカインが嵐のように過剰に分泌されて、生体にとって行き過ぎた反応を来した状態を指します。代表的なものとして、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの死亡率の高い生体反応が挙げられます。

4.ウイルス感染後の自己免疫疾患の誘発

これは新型コロナウイルス感染症に限ったことではないのですが、病原体感染後に自己に対する不適切な免疫を誘発し、自己免疫疾患が誘導されることがあります。例としては、カンピロバクター感染後のギランバレー症候群、何らかのウイルス感染(時にはワクチン接種後)のADEM(急性散在性脳脊髄炎)などがあります。新型コロナ感染症後の脳神経系合併症には、この自己免疫機序によるものがあるのではないかと考えられています。(研究進行中)

5.新型コロナウイルスの持続性感染による障害

武漢株パンデミック当初から、特徴的な嗅覚障害・味覚障害(いずれも脳神経障害)などがみられること。また最近の研究から、感染後3~9か月間に何らかの精神神経疾患が感染者の約30%にみられることから、脳神経系への持続感染による障害が問題になっています。

脳神経系のほか、腸管や精索など他の臓器への持続感染が報告されており、現在、持続感染する臓器(リザーバー)の検討が進められています。

新型コロナ後遺症について

新型コロナウイルス感染症後には、様々な後遺症がみられます。精神脳神経・自律神経・末梢神経系、耳鼻咽喉系、呼吸器系、循環器系、消化器系、泌尿器系、内分泌代謝系など、多岐にわたって、ときには1年以上にもわたって後遺障害に苦しんでおられる方がおられます。

発症の原因について

原因は新型コロナウイルスの感染によりますが、感染後の病態は上記の1~5ように多岐にわたっており、後遺症も多岐にわたって、原因不明のものがあります。

感染後に何週間も遷延する咳嗽や胸痛、動悸、息切れなどの呼吸循環器系合併症が最も頻度が高く、意欲低下やうつ状態などの精神神経系合併症も高頻度にみられます。いわゆる「ブレイン・フォグ」や慢性疲労症候群などの頻度が高いが原因不明の病態や、筋痛性横断性脊髄炎など全身の痛みで起き上がることも困難な重篤な合併症も少なからずみられ、医療機関の受診を繰り返している患者さんもおられます。

検査について

胸部単純レントゲン(2方向)検査、心電図検査、血液・尿検査などの基本検査を行い(※注)、異常所見がみられた場合には、精密検査として、心臓・甲状腺・頸動脈・腹部超音波検査、ホルター心電図検査、肺機能検査(スパイロメトリー検査など)などを行います。その他、必要に応じて連携医療機関に依頼して、脳波検査や全身のCT・MRIなどの画像診断も可能です。

※注: 様々な角度からの検査結果に基づき総合診断を行いますので、初診時の窓口負担が3割負担で5000円~1万円程度かかりますのでご留意ください。

治療について

新型コロナウイルスに対する特異的な治療薬自体、まだ開発に至っておりません。しかし後遺症に対しては、病態に応じて、対症療法と根治療法の様々な使い分けが可能です。

頻度が高く、従来の治療法ではなかなか治療がうまくいかなかった慢性疼痛や精神神経症状についても近年治療法が進歩しており、漢方薬から向精神薬、オピオイドまで多様な使い分けが可能です。
場合によっては、統合医療としてのサプリメントなどの使用に関しても相談に対応しております。
(当院院長は、日本抗加齢医学会評議員でもあります)

最近の後遺症治療の動向(2025年現在)

最近の世界規模での大規模研究では、新型コロナウイルスに1回感染する毎に「脳が4歳ずつ老化する」という現象がエビデンスとして確定しました。
2回目の感染で8年、3回目の感染で12年も脳が老化するのことになります。若年者であれば多少の老化による症状が出なくても、高齢者ではかなり効率に認知機能の低下が見られます。脳の障害された部位によって症状が違ってくるので、認知症検査や知能テストに引っかからないということも問題になっています。
最もよくみられる症状としては「服薬管理が出来なくなる」という症状が最も多く、中には急激にアルツハイマー型認知症が進行して、日常生活が成り立たなくなる進行例もみられます。壮年層でも一過性の認知機能障害を呈するケースがあり、若いからと油断は禁物です。

しかしながら、新型コロナでは、全身の血管炎が病態の首座ですので、脳だけの老化だけでなく、全身の様々な臓器へのダメージも危惧されます。
新型コロナ後遺症には、様々な臓器の障害がみられ、一カ所の診療科や医療機関では対応しきれないことが少なくありません。

全国から患者さんが集まる都区内の主要繁華街(池袋、新宿、渋谷、赤坂、銀座など)に多い、有名後遺症専門クリニックでは、あまりに多彩な症候で完全自由診療として、自律神経障害など手に負えないものを、提携した鍼灸院や証に合わせて生薬を煎じて服用させる本格的な漢方薬局に任せる、という方式をとっているところが多く、健康保険適応外にも関わらず、多くの患者さんで予約が取れない状態だとのことです。

アメリカには「アレルギー免疫科」という、免疫に関連する、アレルギー、感染症、膠原病などの自己免疫疾患、各種腎疾患、炎症性腸疾患、薬剤アレルギー、食物アレルギー、金属アレルギー、免疫不全、免疫療法など、臓器を限定せずに横断的・総合的に診療する科がありますので、そちらで健康保険適応で一括して診断・治療を行なっています。

小職は、ハーバード大学医学部ブリガム&ウィメンズ病院、マサチューセッツ総合病院、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医療センターなどに永年勤務し、若手の指導や、現在も毎年「米国アレルギー免疫科専門医試験」対策を目的とした教科書と臨床試験問題集をUCSF教授陣と様々なテーマについて共同執筆しております。
2026年版は、ネイチャーグループ発刊のランゲシリーズの「アレルギー免疫学」第三版で、
気管支喘息・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)と、アトピー性皮膚炎をあてられています。2025年版は、フェイスブックに掲載しましたが、臨床問題集で「咳嗽とアレルギー」というテーマで執筆を担当しました。2007年から執筆している書籍は、クリニックの待合室に展示してありますので、ご自由にご覧になってください。

小職はこのような背景から、COVID-19のパンデミックにアンソニー・ファウチ大統領顧問をはじめとした専門家の先生方と連携して携わって来ており、当院では急性期から後遺症まで、一貫して取り組んでおります。(基本的に保険診療です)

後遺症には、一般の方々や免疫学に馴染みのない医療従事者の方々に思いもよらないたくさんの疾患が引き起こされます。また、感染のダメージに起因する合併症も数多くみられます。 比較的短期間で改善する全身倦怠感や息切れ、咳嗽のようなもののみならず、治療に長期間を要するものもたくさんあります。

いくつか具体的な例を挙げると、慢性腎不全や不整脈で長期間にわたって治療が必要になるケースがあります。気管支拡張症や慢性気管支炎が遷延したり、糖尿病や甲状腺機能低下症などの内分泌疾患、毛根の血流障害のために、毛髪と眉毛、あるいは全身の毛が完全に抜け落ちる方もおられます。

小児(特に秋中学生)では、筋力低下や起立性障害、ナルコレプシー、その他自律神経障害などが長期間遷延し、寝たきりの状態が長期間続くために、いわゆる“フレイル”の状態に陥り、座位を保持することすら困難になり、年単位で義務教育に通学することが出来ない状態を経てから、当院を紹介受診されるお子さんが多数通院されておられます。
そんな状態になってから、親御さんが強い焦りから、ブレインフォグに対する反復磁気刺激療法を受けたいと大学病院への紹介を希望されたり、脳内セロトニンを増加させるSSRIなどの並診を希望するも副作用に耐えられずに全身状態を更に増悪させて戻って来たりと、社会復帰に難渋するケースが多い傾向がみられます。

腎機能障害や急性尿細管障害で緊急治療を進みみなければいけないケース、強皮症や皮膚筋炎で連携大学病院に紹介入院していただくケース、血栓塞栓症や脳動脈瘤、虚血性心疾患で緊急手術のために救急搬送するケースなど、“どうしてもっと早く受診してくれなかったのよ”と心の中で叫ばざるを得ない方も少なくありません。

最近の知見では、脳内にヘルペスウイルス属(1〜8型)などが潜んでおり、その再活性化や免疫反応などが絡み合って脳神経系後遺症を発症することも分かってきました。近年、急激に発症率の上昇がみられる帯状疱疹に対するワクチン接種が認知症を有意に予防することも明らかになっています。
免疫学の日進月歩には、特にコロナ禍以来目覚ましいものがあります。今後、新型コロナ後遺症に対しても、新しい画期的な治療法が開発されることが期待されています。

参照

国立感染症研究所 感染症疫学センター